幼稚園の時、
クルマの絵を描いた。
「ぶっぶー」ではない。
「ランサーEXターボ」そのサイドビューをはっきり書いた。
父の難しい「自動車工学」という本を
小学生の時から勝手に読んでは怒られていた。
ミニカーが好きで、でも小学生にもなって、と
親に全て隠された。
外に出た時、通るクルマの名前は全部言えた。
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大学を決めるとき、クルマ関係と決めていた。
文系に転換までしてデザインをすることを選んだ。
デッサンから勉強して美術をかじった。
クルマの絵も描いた。
クルマ以外のデザインも勉強した。
大学は何枚も上手なやつらばかりだった。
でも負けなかった。
クルマでもそれ以外のデザインでも。
デザイン以外の理系の授業は散々だった。
大学院でもっと専門的に勉強したいと思って
なんとか親を説得して
でも、理系がネックで留年した。
留年して大学院、では出遅れる。
就職を選んだ。
就職の試験ではうまいやつらばかりで自分の世間の知らなさを呪った。
マツダに行きたかった。
無理だった。
メーカーの子会社をうけたがダメだった。
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ある雑誌に載っていた、ある会社がカーデザイナーを募集しているのを、
友達が見つけて教えてくれた。
応募した。
その会社の専務に声をかけられ、
課題を出された。
死にものぐるいでこなした。
描いた絵の評価は悪かった。
でも、認められた。
面接して、社長にも気にいってもらえた。
嬉しかった。
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小さな頃の夢が現実になった。
夢の中、現実は甘くなかった。
でも食いついた。
他にこんな仕事できるとこがないことを知っていた。
メーカーじゃなくてよかった。
小さなこの会社がすごく崇高な仕事をしている、と思った。
愚痴も多かった。
待遇もよくなかった。
実力のなさに何度もへこんだ。
土曜も仕事だった。
日曜はぐったりするだけの日々だった。
長期休暇も短かった。
もっと休みが欲しかった。
でも、
日曜の一日だけでも、ブランクを感じた。
絵を描く右手は大事だった。
待遇は悪く、よく「辞めたい」と愚痴った。
でもずっと夢が現実になった、その中にいるのはわかっていた。
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結婚することになった。
どっちかが仕事を、住む場所から変わらなくてはいけなくなった。
…「辞めてください」と言われた。
辞めることを決めた。
なぜすぐにこう決断したのか覚えてない…というか
…実はこの辺りから記憶はすでにあいまい…
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夢は現実になっていた。
それを捨てた。
プロダクトのメーカーを何社かうけた。
全部ダメだった。
中途半端だった。
新卒ではなく、でも働いて三年では、あまりに経験が足りなかった。
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そんなとき先輩に、「会社を立ち上げるから来ないか」と誘われた。
ここならまた新しい夢をみられるかも、
と思った。
なにより、クライアントの会社にいた先輩は、
自分のチカラを知っていて、なおかつ、買ってくれていた。
でも前の会社に未練はあった。
ものすごく手をかけてくれて恩もあった。
いろいろまかせてくれるようになった矢先だった。
でも、もう辞める。
新たな夢を見ると思った。
現実は甘くないことも知った上で。
生き甲斐を変えるのだと思った。
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仕事を変わって、現実はやっぱり甘くはなかった。
でも、新しい会社は、最初は厳しかったけど夢物語で終わることなく、
理想に少しずつ少しずつ近づいているのもわかっていた。
それでも、
それでも、
前の仕事は忘れられなかった。
やはり理想の仕事をしていたと思いしらされた。
でも、
仕事を
変わったことを後悔したくなかった。
新しい夢を見れそうだから。
今の自分を否定したくなかったから。
でも、
夢を現実に近づけたい、
そんな思いをよそに、
家では
「仕事」の理解は得られない。
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仕事を変わったばかりのとき、
今までおつかれさま、も、
仕事を変わってもらってごめん、も、
何もなかった。
新しい会社は小さくて不安だから、
やばそうならまた転職を考えろ、と言われた。
最初が肝心だから、早く帰れるように最初からしておけと言われた。
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妻が、俺の仕事を辞めさせてまでしがみついた自分の仕事に復帰してから、
子どもを保育園に迎えに行くのは俺の仕事になっていた。
早く帰ることが当たり前の俺は、
子どもの迎えを理由にした時、
会社でとがめられることはなかった。
あまりにも、当たり前になっていた。
新しい職種・ジャンル、
新しい職場、
新しい人間関係につかることは許されないままここまできた。
復帰後は、最初が肝心だから、家族はかえりみないほどに仕事にすると宣言された。
そのうち、朝保育園に連れていくのも俺の役目になっていた。
妻が出勤したあと、子どもに熱があることがわかっても、
なすすべもなく俺が休む。
俺が早く出勤したくても、残されているのは子どもの登園。許されなかった。
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そんなことに
苛立ちをおぼえはじめたころ、
実家から絵が送られてきた。
幼稚園のときの「ランサー」。
今見ても、ランサー、と文字が書いてなくても、
はっきりと何の車かわかる絵だった。
その真っ赤なランサーの絵は、
今見るには辛すぎた。
こんな小さい時に大事にしてたものを捨ててしまった今では。
また明らかに心が揺れた。
でも今の仕事とくらべたってもうどうしようもない。
ただ、今の会社で、プロジェクトが終わっても、
充実感を得られたことはなかった。
それほどに、全てのプロジェクトでどこかの部分は誰かに頼んで、
迎えにいったり子どもの面倒をみて、
全てにうちこめなかった。
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いつしかあるクライアントをまかせられ、
わからない技術を調べながらなんとかものにしていった。
それは、本流になるプ
ロダクトデザインではないジャンルだった。
その間、本流のプロダクトは誰かにまかせざるを得なかった。
未経験のジャンル、ゼロから本気で勉強しながらこなさないといけない。
片手間ではできない。
それが本流になる仕事ではないにしろ。
その間、まわりはプロダクトの知識をつけていき、
置いていかれる気がして焦った。
同時に、自分のしていることがこれから何かにつながるのか、
わからなかった。
仕事の「内容」の悩みだった。
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それと前後して会社の人間関係が悪くなり、
体調を崩した。
それほど踏ん張れるほど、しがみつけるほどの何かが今の会社で得られていなかった俺は
この仕事の「環境」をきっかけに鬱になった。
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前の仕事、それをやめたこと、
小さい時から積み重ねてきた軸がぽっきり折れ、
今の仕事で新たな軸に今からしていくこと…しごとの「理想」、
うまくまわっていなかった仕事の「環境」、
それらをふくめた仕事への「理解」。
どれも欠ければ平静は保てない、自我が保てない。
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前の仕事は小さい時の夢だった。
夢をつかんで、
夢は現実になっていた。
それを捨てた。
それはもういい。
…新しい仕事で夢が見られるのなら。
事実、問題があったとはいえ、
理想の仕事に少しずつ少しずつ近づいていた。
前の夢は未練たらたらだけど、
それは今はまだ何かを体得してないからってだけ。
これから叶えていくのだ。
でもそのことの理解も得られなかった。
この「仕事」にかんする無理解が最初から積み重なってそもそも負担がかかっていた俺は
会社でのいろんな負荷に耐えられなかった。
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誰かのために苦労することが
バカらしく思うようになっていた。
優しさも、
気遣いも、
できなくなった、
自分がされたことも感じなくなっていた。
感情もなくした。
生き甲斐がなくなった。
誰かの、夢を現実にするために俺がいて、
それは当たり前のこととなり、でも
俺は自分の夢をまともにみれないならば、
俺は
何のために生きたらいい
誰かのために、て言えるのは、
自分の中に軸があってこそ言えるのだ。
俺には言えない。
ケツメイシのトレイン、
Bump of chikenのハルジオン、
そんな歌の歌詞が心に刺さった。
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もう誰かのために、 先回りして動く、とか
無理だ。
自分のことでせいいっぱいだ。
体調崩した今、
生き甲斐の仕事に打ち込むことがまたできない、
楽しかった仕事を楽しいと思うこともできなくなった。
自分の中の軸が、前の会社をやめたときに途切れてから、
軸がない。
もうぶれない軸を基盤を持ってる人のフォローは
たとえ小さな気遣いでももうできない。
自分の存在価値を自分で認められるまで
人の何も通じない。
そしてそんな全てが無くなってしまった心からうまれるデザインで
誰を魅了できよう。
そうなってしまった。
生き甲斐の「仕事」、その基盤を、自分の中の確固たるものを築かなければ、
自分の存在価値がないまま生きなければならない。
幼稚園で描いた絵、
今はとても見ることができない。
基盤を、人のフォローなんかより
自分の足場を、存在価値を見出さない限り鬱は続く。
夢が現実ではなく、また夢になっている今、
でも鬱でうまくまわらないあたまで、
思えることは、
自分て何。
仕事したいのに体調崩す前もくずしてからも制限がかかる。どうしようもない
徒労感
喪失感
自暴自棄
虚無感
自閉。
会社だけにみえるかすかな希望。
圧倒的にネガティブ。
鬱が治ることがあれば、
でもそのとき
昔の自分ではもうない。
感情と思考、記憶の欠落、
優しさ、気遣いはもうもどらないだろう
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